ものすごく面白かったので、西洋の時代衣装に興味のある方は是非。読んで絶対に損はないと思う本。
最初のうち、作者は現代の人だと思っていて(せいぜい1960年代ぐらいだと)
文中の「現代のファッション」について語っているくだりもさほど違和感なく読んでいたのですが、
あれ?と気づいたら実は、1891年に書かれた本だった。びっくりした。
モードの歴史は何度も何度も何度も何度も繰り返す…。
モード=流行、について語られた本なので、ドレスの形状・アイテム類の移り変わり自体を
主体に語られています。
「自分の好きなファッション」と「自分の気に入らないファッション」の描写の温度差が面白い…
自分の美学を信じて、フランスモード千年の歴史を独断と偏見で熱く熱く語っています。
ヴェルチュガダン>パニエ>クリノリンと系譜をたどることになる特徴的なアンダーウェアへの憎悪が特に顕著w
近代に至るまでは、モード=フランス王宮での流行になるので
(資料として残っているのがそれしかないのでしょうね)フランスの王宮史がざざっと網羅できます。
歴史上の人物の好き嫌いも読んでいてすごく面白い(笑 好悪が激しいところもフランス人らしい気がします。
マントノン夫人(ルイ14世の後妻)を「陰気」とばっさり切り捨てているところとか。
中世あたりはやはり資料が少ないためか、筆のノリの良さは近代以降が顕著です。
私はせいぜい、ルイ13世以降ぐらいからしかフランス史が分からないので
(それも主に小説やマンガで得た知識)
作者の描く人物像は、読み物としてもなかなか楽しゅうございました。
勉強になるわー。
殊に面白かったのは、
「当節、仮面なしに外出するのは、貴婦人のみならずブルジョア女性にとってもはしたないことである」
16世紀半ばの流行。帽子や手袋のように外出の際の必需品として「仮面」(いわゆる仮面舞踏会で使われるタイプのもの)
があった時期があるとは。
「女国王」「男女王」と当時の風刺文で揶揄されたというアンリ3世のくだりも衝撃的でした。
でもドレスを着ていたってわけではなくて、女性特有だったアクセサリやアイテム(扇子やレースなど)を取り入れ、
ついでに化粧もしていたって話のようなので、女装というよりは、中性志向?
21世紀ならばそれほど違和感のある格好でもないのでしょうけど…。
このへんが16世紀後半の話で、彼が王宮男性のファッションをいっぺんに華やかにしたおかげで、
その後の17世紀の銃士ファッションがあれほど華麗なものになったのだなあ、と感慨深かったです。
19世紀に入ると、書かれているファッションと自分の認識に数年のズレを感じて「あれ?」
と思うことがありました。が、舞台がフランスであるということに思い至って納得。
私の知っている19世紀の服装史はどうしてもイギリス中心なので、
フランスのほうがそれよりも早くモードが発信されているのですね。
さすが、ヨーロッパのモードの中心地。何と言ってもイギリスは島国だからなあ…。
イラストレイターとしても活躍した人とのことで、ふんだんに作者本人の挿画が入っています。
そのため、他所から引っ張ってくるよりも挿画と文章とのリンクが的確です。
あんまり面白かったので、この人の書いた小説も読んでみたいと思いました。
「20世紀の○○」というSF小説(笑)をいくつか書いているようなので。
当時はヴェルヌと並んで人気のあったSF小説家だったのだとか。
残念ながら、現代ではあまり評価されていないようですけども…。
私は図書館で借りて読みましたが、この本は購入して手元に置いておこうと思います。
文庫なので割合気軽に読みやすいのもお勧めー。